はじめに
2018年にサウナメディア『SAUNATIME』を立ち上げ、今ではサウナイベントのプロデュースやトークイベントへの登壇など、すっかりサウナ界を牽引する一人となったけたさん。
『SAUNATIME』の誕生の背景や、イベントプロデュースにかける思い、そして驚きのサウナ上級者への提案についてお話をうかがった。
インタビュー
『SAUNATIME』は、けたさんの「サウナ時間」から生まれた
やの まず、けたさんのサウナとの出会いを教えて下さい。
けた 当時、勤めていたブライダル関連企業の経営層に就任したばかりの頃に、会社がTOBされて役員陣が刷新されたんです。僕以外の他の役員はみんな新経営陣になりました。
やの どアウェイですね。
けた むちゃくちゃ怖かったです。毎週叩きに叩かれて。特に僕は業績と直結する営業部門の責任者だったので、叩かれやすかったんです。しかもTOBされた先はバリバリのIT企業だったので、ブライダル業界の慣習や世界観も理解してもらえなくて、そこもまた叩かれました。
僕はラテンミュージックが大好きなんですけど、取締役会議前日の夜になるとラテンを聴かずに中島みゆきの『時代』を聴いていました(笑)
やの 人生振り返っちゃってますね。
けた 元々メンタルは強い方だったんですけど、それでもだいぶすさんでいきました。
会議の準備が遅くまでかかるので、神奈川の自宅にも帰れなくなってしまって、仕方なく会社近くの『アスティル』に泊まるようになったんです。
もともとサウナは好きだったので、アスティルでも自然とサウナに入っていました。アスティルのサウナにはテレビがなくて考え事をするしかないので、翌日の取締役会のことを考えたりしていたんですが、不思議とネガティブな思考にならなかったんです。
それで「辛くなりかけたらサウナへ行く」というのを繰り返していたら、気がつくと週5日で通うようになっていました。そのおかげで精神的にタフになりました。
本格的にサウナに行くようになったのはその頃からですね。
やの いわゆる「ととのった」的なハマり方ではないんですね。
けた 「サウナ室での思考」からですね。アスティルには本当に助けられました。
そのうちに会社の中でも上手く立ち回れるようになって、実績も出せるようになりました。
リーダーである僕自身がイライラしたり、追い込まれていると、組織は上手くいかないですよね。リーダーがいつもニコニコしていたり、元気で闊達だと組織はゆっくり上向いてくるものなんだという気付きもありました。
やの サウナにハマってから「『SAUNATIME』を立ち上げよう」と志した経緯を教えていただけますか?
けた 立ち上げを決意した理由はみっつあります。
ひとつ目は自分自身がもっと色んなサウナを知るきっかけを作りたいと思ったことです。
ブライダルを取り扱っていたので、全国に出張する機会があったんです。といっても僕が出向かないといけないときは、ほとんどが大クレームが起きたときか、大切な商談があるときで、すごくストレスフルなんです。
でも、例えば「札幌でクレームが起きた」と言われたら「ニコーリフレだな」と思うとすごく楽しくて。各地にいいサウナがあれば乗り越えられたんです。
メディアを作ることで、よりポジティブなモチベーションで出張に臨めるようになると考えました。
ふたつ目が、僕はそれまで資金調達や事業運用を得意としていて、サービスがユーザーに選ばれるためにはどうすればいいのか、満足してもらうにはどうすればいいかというマーケティング的な知見を持っていなかったんです。だから自分が好きなことでサービスを立ち上げてみて、実践で学ぼうと思ったんです。
みっつ目が一番大きな理由で。サウナの正しい入り方や、サウナに入って元気になったり気持ちが落ち着いたりしたのはどうしてなのか、というメカニズムをきちんと知りたかったからです。
そういうサウナのお作法や効能についてまとめた情報サイトが、当時はまだなかったんですよ。多くのサウナ好きの方達に、そのような情報を届けたいと思いました。
自分自身がサウナについて学べるし、キャリアアップにもなる上に、サウナが好きな人たちのニーズも満たせるんじゃないかというこれらの要素が重なったときに『SAUNATIME』を立ち上げようと決意しました。
行動力、営業力を発揮した『SAUNATIME』のリリース
やの 着想から立ち上げまで半年ほどだったそうですね。ものすごいスピード感ですが、大変だったことはありましたか?
けた 「思い立ったら動こう」というモチベーションでしたが、大変だったことはふたつありました。ひとつは開発のための資金調達と、もうひとつはサイトの開発でした。
まず資金調達については、スポンサードをお願いする企業と僕とがWIN-WINの関係になる必要があります。「そんな企業あるかなぁ」というのをサウナのととのいイスで考えていたときに、自分がサウナにいくときに絶対使うもの、身に付けるものがいいと思ったんです。
でもふと気付いたんですが、当たり前のことなんですが、サウナにいく時ってなんも身に付けないんですよね……。絶対に使うものといえばタオルとかになりますがそれは施設にあるし……。と悩んでいたときに、自分がサウナにいく時は必ず『イオンウォーター』を飲んでいることに気付いたんです。僕は昔からサウナに入るときは絶対にイオンウォーター一択だったんですよ。
やの けたさんはずっと前から、自分の理論でイオンウォーターを選んでいましたよね。
けた 僕の中ではサウナのベストドリンクといえば最初からイオンウォーターでしたね。汗に近い水分と電解質のバランスを考えたら「これしかないな」って。考え出したらのめり込むタイプなので、他のスポーツドリンクの成分とか全部調べて、ひたすら飲み比べたりして最終的にイオンウォーターに辿り着きました。
やの それで大塚製薬に売り込みをかけようとなったわけですか?今でこそサウナ界隈で実績を築いているけたさんですが、実績も知名度もない時代にどうやってそんなに大きなところと繋がれたんですか?
けた 『スカイスパ』のサウナイベントに参加したときに大塚製薬の方が来ていたのを覚えていたんです。だからまずスカイスパの関係者さんにアプローチしてみようと思いました。
その方は仕事終わりにスカイスパのサウナ室に来るらしいということだったので、その方にお会いするためにスカイスパに通うことにしたんです。
ある日、ついにその方がサウナ室にやってきました。さっと隣に座って「ここのサウナいいですよね」というところから始めて、『SAUNATIME』の構想についてお話をしました。後日、改めて話を聞いてもらえることになって、結果的に大塚製薬からサウナタイムの初期開発をスポンサードしてもらえることになりました。
きちんと話を聞いてくて、協力してくれたその方については、今でも恩人だと思っています。もちろん大塚製薬の当時のプロダクトマーケティングマネージャーの方のご協力もありました。
お二人の協力がなければ『SAUNATIME』はありませんでした。
やの サイトの開発面についてはどのように乗り越えたんですか?
けた Webサイトを作る際は、フロントエンド、バックエンド、デザイン、サーバーサイドの4つの技術が必要なのですが、4つを一人でできる逸材が社内で見つかったんです。面識のない方だったんですが、頭を下げたら二つ返事でOKしてもらえたんです。
やの その方もサウナが好きだったんですか?
けた サウナに入ったこともなかったそうなんですが、なにか新しいことをやりたいと思ってくださったんでしょうね。とてもアグレッシブに動いてくれて、とても大変なサイト構築をたった一人で成し遂げたんです。本当に恩人です。
SEO対策の技術や知見もとても高い方で、僕は素人なので最初はうまくWeb向きの記事が書けなかったんですが、その点に関してもアドバイスを貰いました。
やの 『SAUNATIME』のリリースは2018年の2月ですよね。『サウナイキタイ』も2017年11月だったので、サウナを扱うサイトが同時期に立ち上がった時期でした。「被ったな」とか「まずいな」と思ったりはしませんでしたか?
けた うちは検索機能よりも読み物コンテンツをメインにしようと思っていたので、被ったとは思いませんでしたね。ライバル視するどころか、実は彼らは僕にとって恩人なんです。
というのも、うちの最初の記事の取材をサポートしてくれたのが『サウナイキタイ』の運営のかぼちゃさんだったんです。当時『サウナイキタイ』はリリースを目前に控えていた時期だったのですが、そんな中で後発してくるサイトを手伝ってくださったんです。本当にすごく感謝しています。
やの 『SAUNATIME』は取材によくいかれているイメージがありますね。ヨモギーさんやサウナ王みたいな界隈の有名人だけでなく、サウナを治療手段のひとつに取り入れている鄭先生といった通な方にも取材されていますよね。
けた 鄭先生も関係者を辿って取材にこぎつけました。
やの 先ほどのスカイスパの話もそうですが、辿ってきちんと目的地にたどり着くまで完遂するところがすごいですね。
けた そのようにおっしゃっていただいて……。恐縮です!
僕が思う自分の強みは行動力や折衝力、営業力だと思っています。だから電話1本から始めて取材に行くようにしてます。リアルに取材した情報というところが信頼を得られたのかなと思っています。
サウナが幸せ総数を上げてくれる
けた 僕はそもそもインターネットやSNSがあまり得意じゃなくて、リアルな場が好きなタイプなんです。だから最近取り組んでいるイベントのプロデュースは個人的にもすごく楽しんでやっています。
やの 『ニューウィング』や『北欧』でレディースデイをやったり、『グリーンサウナ』 でフィンランドフェスを主催されていましたよね。フェスなんか特に大変だったんじゃないですか?
けた 確かになかなかハードでした。企画から飲食物の調達、フィンランド政府観光局への後援依頼や協賛企業の募集まで準備が多岐にわたりました。
でもそれをやりきったことで「サウナイベントなら『SAUNATIME』」と評価してくださる方が増えて、フィンランドフェス以降はイベントの依頼が増えたんです。
やの 今後はイベントに中心に活動されていくんですか?
けた 僕の活動の動機として「サウナを知らない人がサウナに来るきっかけを作っていきたい」という想いがあるんです。そのひとつとしてイベント主催は軸になっていくと思います。
「きっかけとしてのイベント」であることを大切にしたいので、参加料はなるべく無料か低価格で実現していきたいと思っています。
やの サウナファン向けのお値段がそこそこするイベントは数多くありますが、それだと入口には向かないかもれしないですもんね。
けた 他にも、女性がサウナに来る機会を増やせられるような活動に取り組みたいと思っています。特にお子さんがいる方は、施設に行くこと自体が難しかったり、子連れだとお母さんがじっくりサウナを楽しむことが難しいので、その辺りを解消できればと思っています。
「サウナに入れば何事も万事解決」とはなりませんが、サウナに入ることで日常生活のパフォーマンスが全体的にちょっと上向くのではないかと考えています。
仕事にちょっと前向きに取り組めるようになったり、家庭での会話がちょっと明るくなったり、睡眠の質がちょっと良くなったり、そういった「ちょっと」が積み重ねられていくことで上向きのらせんを描くように生活が向上していくものだと僕は捉えています。
やの 例えるなら「味の素」的なことですかね。
けた まさしくそのとおりです。
それと、個人的に思うことなんですが、幸せの感じ方があまり上手じゃない方が、今この国にはとても多いんじゃないかな、と思うときがあるんです。同調圧力や相対評価を気にしすぎてしまって、自分軸での幸せがとても測りにくいのかな、と。
そこでサウナが役に立つと思っています。「自分にとっての幸せは何なのか」「どうすれば幸せになれるのか」ということをサウナで考えてみてほしいんです。日常のストレスや疲れから解放されたリラックス状態で幸せについて考えることで、その答えは普段よりも導き出しやすくなるはずです。
僕は「サウナがみんなの幸せの総数を上げてくれる場になり得る」と確信しています。
だからこそ、ある程度サウナに通い慣れたら、「ととのう」ことに囚われすぎずに、もっとラフな感じでサウナを楽しんでもらいたいですね。水風呂が苦手ならそれでいいと思うし、1ヶ月に1度行くぐらいでもいい。気楽にサウナに触れてもらいたいと思っています。
サウナ上級者へ、けたさんからの提案
※剃るさまをジェスチャーするけたさん
けた 僕からサウナ上級者におすすめしたいことがあります。ぜひ一度「パイパンにしてサウナに入る」というのを体験してみてほしいんです。
僕の人生のフェーズを3つに分けるとすると「嫁と出会う前」「嫁と出会ってから」そして「パイパンにしてから」。それくらいのインパクトがあるんです。
やの すごい提案をぶっこんできますね(笑)
けた パイパンの状態で水風呂に入ると、水風呂が段違いで気持ちよく感じられるんです。
やの なかなかイメージしづらいですね…。
けた 想像してみてください。館内着を着たまま水風呂に入るのと、館内着を着ずに水風呂に入るのとどっちが気持ちがいいですか? いわずもな後者じゃないですか。毛を纏っていない方が、より気持ちがいいはずです。
やの それはそうですけど、でもその違いを感じるのは股間だけですよね?
けた でも身体の中で一番感度が高いのはそこですよね。毛があるということは、一番敏感なところにカバーを付けているようなものなんですよ。
それに、サウナ室でも股間からも汗をかいていることが視覚的にわかるようになって、それも見ていて良い気分になりますね。
やの なるほど。とはいえいきなりパイパンにするというのは心理的にハードルが高い気がしてしまいます。
けた そう思うかもしれないですけど、剃ってから一週間経てばまた毛が生えてきますから。
僕の周りの人たちに、パイパンについて聞くと「絶対にしたくない」という人は少数なんですね。大半の人たちは「したくない」と「してもいい」の間ぐらいの感覚なんです。それなら一度やってみればいいんです。
やの 確かに一理ありますね。ちなみに、剃るときのポイントはありますか。
けた そうですね、剃る道具については、薬局に売っている100円ぐらいの使い捨てカミソリで十分です。最初からサロンで除毛する必要は無いと思います。カミソリの種類について言えば、5枚刃だと毛が絡んで剃りづらくなってしまいますので、2枚刃か3枚刃がベストです。
ヒゲ剃りと同じく、シェービングクリームをつけて、剃ったあとは乳液などで保湿をしましょう。より感度が良くなって、手触りも良くなりますよ!
やの ですって!上級者の方たち!
(インタビュー:やのしん/文章:東ゆか)