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【大西一郎さんインタビュー】サウナブームとボディケアと大西一郎と。

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はじめに

皆さんは大西一郎という男をご存知でしょうか? いや、きっとほとんどの方が知らないことでしょう。

彼は鶴見のスーパー銭湯「おふろの国」に併設されたリラクゼーションコーナー「ケアケア」の店長で、一見するとサウナとはあまり関係のない存在です。

でも彼はセラピストであると共に「サウナ歌謡歌手」なのです。日本で、いや世界で唯一の。

前面に出るタイプではなさそうな見た目とは裏腹に、彼はボディケアの傍らサウナ歌謡曲を自作し、スパンコールのジャケット姿でライブを行い、時にはサウナ室内にラジカセを持ち込んで歌い、ついにはフルアルバムまで発売してしまったのです。

僕は「得体の知れない彼こそが温浴業界のリーサルウェポンである」と強く信じています。

今回はそんな大西さんに、ボデイケア業界の現状とボディケアの基本的な話、そして彼自身のヒストリーをひも解くインタビューを敢行してきました。

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※大西さんと熱波師の宮川はなこさん

インタビュー

サウナブームとボディケアの関係性

やの いまは空前のサウナブームですが、ボディケア業界はその恩恵を受けているんですか?

大西 少なくともうちの店は恩恵を受けきれていないんじゃないかと思います。サウナブームによっておふろの国に来るお客さんは客層が変わって来て、若い世代の方や遠方から来られる方が増えましたけど、その方々の目的はあくまでサウナや熱波ですからね。

 ごくたまに遠方からのお客さんが、おふろの国に来た記念としてうちで提供しているサウナー向けのメニューを受けて行かれる方もいますが、単発で終わってしまいます。

 ボディケアは継続利用して頂くことが採算的には非常に大事なポイントなのですが、サウナーさんからしたらボディケアに通う分のお金があればその分色んな施設を巡れますからね。なかなか簡単には「ついでに利用しよう」という意識にはならないですよね。

やの 「サウナー向けのメニュー」と仰っていましたが、そういった施策は色々と試していたんですか?

大西 ケアケアでは数年前から色々と試していました。サウナー向けサービス以外にも、サウナーさんはTwitterを利用している割合が高いと知ったらTwitterアカウントを作って発信を始めましたし、僕自身が熱波をやったりサウナの歌を作ったりして、何とか流行りに乗っかろうとしました。でも全然乗っかれませんでしたね

やの 「ケアケア」にはOFR48のくりりんさんやプロレスラーのオルカ宇藤さんなども在籍していますが、タレント性と集客はどれくらい結びつくものなんですか?

大西 これが意外と集客には結びつかないんですよ。最初は目を引くので一時的にお客さんは増えるんですけど、継続して利用してくれるかというとそうでもなくて、「その人に会いたい」と、「その人に揉まれたい」は結び付きにくいのかもしれません。

でも、普通は風呂屋のリラクゼーションコーナーのスタッフにどんな人がいるかなんて、実際利用しないとわからないですが、来たことがない人まで、あんな人やこんな人がいる「おふろの国のケアケア」と認知されているのはすごいことかなと思います。

 それに、写真映えも良いし、普通スタッフの写真や名前をポスターにして表に貼り出すなんて嫌がるものですが、彼らは嫌がらずに出てくれるので「こんな濃いキャラが揃ってるんだぞー!」って自慢したいです。

 お店の財産ですね

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※ケアケアスタッフのくりりんさんと熱波師の復火信二さん

意外と知らないボディケアの基本

やの そもそもボディケアって、通常どんな層の方が利用されるんですか?

大西 男女比でいうと一般的には女性7割:男性3割ぐらいだと言われています。おふろの国はちょっと特殊で男性が多いんですけど。また、世代比でいえば、コロナ前だと50~60代が中心だったのですが、コロナ以降はそれがちょっと下がってきましたね。

やの 継続利用してくれるのはやっぱり世代が上の方が多いですか?

大西 そうですね、近所に住む上の世代の方々が多いです。週に何回も来てくれる方もいれば、月に一度、数ヶ月に一度だったりとペースは人それぞれですが。

やの どれくらいの頻度での利用が理想的なんでしょうか?

大西 可能であれば週1で利用して頂けると理想的ですね。体の状態って1日でも大きく変化するので、こまめにケアすると調子よく動けると思います。実際、週に何度も通ってくれる方でもその日何をして過ごされたかによってコリ具合やコリの箇所が全然違ったりします。

 とはいえ、薬と同じでやり過ぎには注意が必要ですが。

やの 街のボディケア店舗と温浴施設に併設された店舗との違いはあるんでしょうか?

大西 僕は両方で働いたことがありますし、同じ経験のある人同士で話したりもするんですが、一番の違いは施術者のモチベーションに差が出ますね。

 街のボディケアはだいたい60分3000円くらいで、温浴施設だと60分5500円くらいするんですけど、私の場合は無意識的に値段相応の働きをしてしまうんですよ。決して手を抜くわけじゃないんですけど、「この値段ならこのくらいで十分かな」って線を引いてしまうんです。

 あと、温浴施設だと基本的には入浴した後の体がほぐれた状態での施術になるので、普通に受けるより効果的だと思います。施術する側としては深くまで届いている感覚があります。

やの 素人とプロで明確に違うものってどんな要素がありますか?

大西 端的に言うと「深さ」でしょうか。素人のマッサージは平面的ですが、プロの施術は人の体を立体的に見ている気がします。コリをほぐすには該当箇所をただ強く圧せばいいというものではなくて、そのポイントのどれくらいの深さにコリの芯があるかを探し当てる必要があるんです。それを発見出来るのは経験を積んだプロならではの技術かなと思います。

 あと、不特定多数の人の施術をして膨大なデータベースが脳内で構築されるので、「この人はあのタイプだからこういうほぐし方で」という風にタイプ別の施術方法が確立されています。だから初めての人の体をちょっと触れば、だいたいどのように施術すればいいかがわかるんです。外れる場合もありますが。

やの 素人感覚だと施術時間についてもよくわからないのですが、何分くらい受けるのが良いんでしょうか?

大西 人それぞれです。長ければ長いほど色んなことができるし、ゆっくり丁寧にまんべんなくほぐしていけますが、逆に揉み返し(筋肉痛のようなもの)が来る人もいますし、短いから効果が薄いということもないと思います。私はお客様が20分と言ったら20分以内でなんとかしたいので、短ければ短いなりに神経を研ぎ澄ませて施術します。個人的には短い時間のときほど燃えますね。

やの ちなみに、大西さんならではのウリって何ですか?

大西 僕のウリは指が細くて長いことです。表面が固くて奥にコリの芯があるとして、普通だとまず表面をほぐしてから深いコリにたどり着くというような手順になるんです。でも僕は、針の穴を通すような感じで、固い表面のどこかにあるちょっとした隙間をかき分けて中の芯を突き刺すことに命を懸けています。表面の固さも深いコリがほぐれれば自然と柔らかくなる気がします。

 とはいえ相性というものはあるので、ボディケアを受ける方は施術者がどんな方法論でコリをほぐすのかを聞いたり、圧す力がどれくらいあるのか確かめたり、施術後の効果がどうだったかを感じた上で、自分に一番合う人を探していくと良いと思います。

 だからよく「この店で一番うまい人にしてくれ」とお願いしてくるお客さんがいるんですけど、それはこちらからは選びにくいんですよね。相性の良し悪しを判断できるのはお客さんなので。

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※ケアケアスタッフのオルカ宇藤さん

大西一郎ヒストリー

やの 大西さんがボディケアをはじめたきっかけを教えて頂けますか?

大西 最初は大学生の時に始めたバイトで、ホテルの出張ボディケアをやっていました。テレビで見たことのある仕事で「自分も出来たら面白そうだな」と思って始めたんです。時給も結構良くて。

 その後、就活時期になるんですけど、僕らの世代は就職氷河期ど真ん中で、僕はあっさり就職を諦めてしばらく実家でゴロゴロとフリーターをしていました。でも、ある時新聞広告でスーパー銭湯のボディケアスタッフを募集していたのを見て「これなら経験があるから行けるかも」と思って応募したら受かりました。そうして社会人デビューして、ボディケア一本で今に至ります

 ちなみに、この業界に入ってくる人ってなぜか変わった人ばっかりで、僕にとってはそれがとても居心地よかったんですよね。色んなタイプの変な人が次々に現れて、自分の中の変な人ランキングがどんどん更新されていくんです。「そういう人たちに比べたら自分は全然変じゃないのかもしれない」って安心できましたね。

やの おふろの国に来たのはどんなきっかけだったんですか?

大西 僕は兵庫出身でずっと関西で過ごしてきたんですけど、仲良くしていた友達の中に、東京でボディケアの管理職をしていた人がいて、こまめに連絡を取り合っていたんです。

 それでよく彼女に「東京に来なよ」って言われていたんですけど、僕は「絶対行きたくない」と拒否していたんです。

 ただ、働くお店を転々としていく中で、ボディケアで働き続けた人の末路を見るような現場を目の当たりにしてしまい、仕事について「このままで良いのか」と悩むようになりました。

 そんなタイミングで「こっちにアンタにぴったりのお店がある」と誘われたのがおふろの国でした。「店長経験があって何か芸がある人」を探していて、歌が好きでカラオケ講師の資格を持っている僕に当てはまっていたし、人生で一度くらい関東に行ってみようと思って、それで転職を決めたんです。

やの 関東に出てきてどう感じましたか?

大西 関東のカルチャーというよりは、おふろの国のカルチャーにびっくりしましたね。こんなに変な温浴施設があるんだ、と。

 また、僕は以前は、関西へのこだわりは特にないと思っていたんですが、離れてみて初めて関西への愛に気付きました。これまでは吉本新喜劇もテレビを付けてたまたま流れてたら見るぐらいだったんですか、録画して欠かさず観るようになりましたね。

やの 僕から見たら「変な温浴施設」であるおふろの国でも大西さんは際立った存在に映るのですが、すぐにサウナ歌謡を作って歌うようになるんですか?

大西 サウナ歌謡を作るのはしばらく経ってからになるんですが、歌を披露するまでは速かったですね。

 勤め始めた翌月に「熱波甲子園」というイベントがあることを知って、会社に「これは何?誰が出るの?」と聞いたら「アンタに決まっとるやん」と言われたんです。過去のイベントのDVDを観て「自分は何をすればいいのだろうか」と考えた末に、サウナ室の中で通天閣の歌姫・オーロラ輝子になり切ってサウナになぞらえた替え歌を歌ったんです。

 それをおふろの国の店長の林さんが喜んで下さって、今度は「ケアケアのテーマ曲を作ろう」という動きになって、楽曲提供して頂いて歌手デビューすることになったんです。作詞は、私が生まれて初めてしました。

 その後、ケアケアでアカスリサービスを始めることになったときに、林さんから「何か曲作ってよ、アカスリブルースみたいな」と言われて、それではじめて自分のオリジナル曲『あかすりブルース』を作ったんです。

 それ以降は林さんのアイデアを参考にしながら、サウナに媚びていく形で『サウナ船』『テントサウナ慕情』『あゝフィンランド』などの曲を作っていきました。

やの 大西さんはボディケアと歌手活動とどちらの方が好きなんですか?

大西 正直どっちとも言えないですね。以前は歌うことが大好きでしたが、今こうして仕事の一環として歌うようになると、カラオケをしていても仕事の意識がよぎるようになって、前みたいに楽しいという感覚とはちょっと変わってしまったんですよね。

 ボディケアについても好きというよりは「探求心が尽きない」っていう感じですかね。僕は職人気質で、お客さんに満足してもらいたいという気持ちはもちろんありますが、「このコリはどうやったら効率的にほぐせるだろう」とか「今やっている方法以外にどんなやり方があるだろう」とか、そういう好奇心も強いです。

 やればやるほどわからないことが出てくるので、いつも模索しているような感じですよね。結果的にそれがお客さんを満足させることにつながっているのかもしれないと思いますが。

やの 最後に、大西さんのこれからの目指すところを教えて頂けますか?

大西 いや別に、なーんも考えていないですよ。のらりくらりと、生きてさえいければいい大雑把な性格なので。

 あ、でもあれですね、サウナブームには乗っかりたいです。


(インタビュー・文:やのしん)

関連情報

▼大西一郎さんアルバム『大西一郎全曲集』の通販サイト
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▼大西一郎さんTwitter
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