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【推しサウナインタビュー vol.1】『泉サウナ』オーナー・大室健さん(静岡県静岡市)

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はじめに

「完全にナメていました!すみませんでした!!」

サウナブームの流れの中で、都内に多くの個室サウナが新規オープンしました。僕自身も何店舗か利用しましたが、正直個人的には「個室」であることと引き換えに本来のサウナが持つ魅力を削っているところが多いなと感じており、物足りなさを感じていました。

なので、僕の地元である静岡市に『泉サウナ』という貸切サウナが出来たというニュースを知った時も、「まぁその中のひとつなんだろうな」と勝手なイメージを作っていました。

とはいえ地元に出来た施設なのだから一度は試しに利用してみようと思って、僕をサウナの世界に引き込んでくれた友人を誘って一緒に行ってみたときの感想が冒頭の言葉なのです。

『泉サウナ』は本気だ。絶対オーナーが徹底して自分の理想の空間を作っている。利用後にそう感じた僕は、どうしてもその内情を知りたくなって店員さんに取材依頼をお伝えしたところ、ありがたいことにオーナーの大室健さんにインタビューできる運びになったのです。

とても素敵な内容のインタビューなのでぜひ最後まで読んで頂けると幸いです。

大室健さんプロフィール


大室健
2010年より飲食店経営をはじめる。
様々な飲食店を経営しながら、2022年静岡市に貸切サウナ「泉サウナ」をオープン。

泉サウナHP
coubic.com

インタビュー


–– どのような経緯で施設を作ることになったのですか?


僕は13年飲食店の経営をしていて居酒屋やパン屋などをやっているのですが、最終的にはサウナ付きの宿泊施設の経営をしたいという想いが以前からあったんですね。でもそれには段階を踏まなければならないなと思っていて。

そんな時にコロナ禍に見舞われて、居酒屋を休業せざるを得ない状況になってしまいました。そうすると従業員に仕事を与えられないので、働く場を提供するために貸切サウナの経営を始めることにしたんです。だから、本来計画していた時期よりは早いタイミングでサウナ経営に着手したことになります。


–– 僕が実際に利用してみた感想としては飲食がとても美味しかったのですが、どのような意識でフードの提供は行っていますか?


やはり長年飲食店を経営してきたこともあるので、提供する食事にはこだわりたいなと考えました。地元で丁寧に手作りをしている個人店のこんにゃくやがんもどきとか、そういうものってどんどん減っていってしまっている時代なので、そういうものが少しでも長く残って欲しいという想いでそういったお店から食材を仕入れたりしています。

個人店の中には、配達を行っておらず現地に直接買出しに行かなければならないところとかもあってコストは掛かりますけど、コスパだけで安易に大手のものを発注して他の店と代わり映えのしない味のものを出しても面白くないですからね。しっかり手作りされたものならではの味わい深さを知ってもらえたら嬉しいです。


(泉サウナ外観)


–– 他にも随所にこだわりを感じますが、どのような想いで施設をデザインされたのでしょうか?


僕自身も飲食店経営者のつながりで全国色んなところに温浴施設に行っているんですが、駅の近くにサウナがあるとありがたいんですよね。ご飯を食べてからサウナに行って、その後飲みに繰り出すというのがスムーズに出来て。

それで言うと静岡市にはサウナしきじさんのような超有名な施設がありますが、静岡駅の近くにはサウナがないので、それでまず「駅から歩けるところにサウナを作りたい」と考えました。

また、施設としてはなるべく不要なものは置かず、動線に無駄がないようにしたいと思いました。シンプル・イズ・ベストの考え方ですね。それで自分自身が十分納得できる空間にして、サウナ玄人の方に利用してもらったときでも褒めてもらえるような施設にしたいと考えました。

そのためには浴室に広さを確保することだったり、しっかり熱いサウナ室を作ることだったり、広くて冷たい水風呂を作ること、外気浴スペースを設けることなど品質を担保するために妥協しないようにしました。妥協していればスペースを削って個室の数も2室は増やせたんですけど、それだと玄人の方には満足してもらえないだろうなぁと思ったのでやめました。

いま特に個室サウナを中心に新規のサウナ施設がどんどん出来ている中で、利用したお客様の心に残る場所にしていかないと生き残れないというのもあると考えています。


–– お湯の浴槽があることや、浴室に使われている建材が木がメインなのも印象的ですね。


やっぱり僕自身がお湯が好きなんですよね。あるとすごくホッとするというか。

サウナってその日の体調によって入る時間が変わったりセット数も変わるじゃないですか。サウナ室に入っているときも水風呂に入っているときも刺激が強いので、ちょっと体を休めるためにお湯があってくれると心がほぐれるんですよね。浴槽が2つなら、水温の違う水風呂2種類という提供の仕方も出来たんでしょうけど、僕にとってはお湯が必須だったんです。

また、木をメインで使っていることについては、うちは浴室だけじゃなくそれ以外のところもほとんど木なんですよ。飲食店とか最近はコンクリートやモルタルを使うのが流行っていたりしますけど、やっぱり施設が木で出来ていた方がリラックスできるんですよね。駅近だけど木と水と緑があるっていう、ちょっと大げさに言えば「都会のオアシス」みたいな空間作りを目指しました。


–– あと、サウナ利用のあと60分貸切の団らん室が無料で使えるのも他にはないサービスだと思います。


団らん室については必須じゃないかもしれないけど「あった方が絶対良い」と思ったので設置しました。

サウナを出た後すぐにお店を出なきゃいけないっていうのはなんかちょっとせわしない感じがするので、少しゆっくりする時間を用意してあげて、そこでお酒を飲むでも話をするだけでもいいのでくつろいで過ごしてもらえたらいいなと思っています。


※ ※ ※


–– 実際に運営してみて苦労した点はありますか?


オープンしてまだ4ヶ月くらいですが、最初の頃はずっと大変でしたね。大きなところでいえば設備トラブルがありましたし、品質や業務改善・改良のための課題はどんどん見つかってその都度解決していったので、最初の頃僕は22時間くらい働いていました(笑)

働いているのにお金が増えていかないっていうのは苦しいだけになってしまうので、きちんと利益を出すことを意識しながらひたすらアップデートを続けました。それが4ヶ月経ってようやく今はある程度の形になって落ち着いてきたかなと思います。いま振り返るとホントこの期間は一瞬でしたね(笑)


–– 貸切サウナを使ってもらうだけじゃなく、団らん室のことやフードの提供など色々ありますもんね。


そうですね、泉サウナの運用スタイルって今のところ他にないですからね。他の貸切サウナさんからお話を伺ったりもしましたけど、やっぱり独自で考えなければならない要素が多かったので、だからこそトライ&エラーを重ねていく量がすごく多かったのだとも思います。

でもやってみて思うのは、今後うちのスタイルを取り入れる施設っていうのも出来てくるんじゃないかなと思います。


–– 確かに、地方で土地に余裕があるところにとって模範となる貸切サウナになるように思います。


実際この4ヶ月で地方の色んなところから経営者さんが見学に来られて、一番遠いところだと宮古島から来られましたよ。親しい方からの紹介だったというのもありますが、施設の図面なんかも渡しちゃったりと結構オープンにしています(笑)

どんなビジネスもある程度は模倣されることを覚悟しなければならないので、だったらもう最初から協力し合う形でやっていった方がいいんじゃないかなって思っています。

協力ということについて他の側面で言えば、同じ市内にサウナしきじさんがありますけど、ライバルとして敵対視するんじゃなくて「ぜひしきじさんと併せてうちもハシゴして使っていってください」みたいな共存が出来たらいいなと思っています。

最近のしきじさんは2時間待ちとか発生してしまうようなので、泉サウナで時間を潰してからしきじさんに行ってもらうみたいなこともアリかもしれませんし。それによって少しでも多くの人にとって静岡を訪れるきっかけになれたら嬉しいですね。


(泉サウナ内観)


※ ※ ※


–– これからどんな改善をしていきたいですか?


改善についてはこれからも何かしらずっと行っていくと思います。ハード面では現状の自分が納得できるものを用意出来たので、細かいところをどれだけアップデートし続けて、良い施設で在り続けられるかというところですね。

そのために絶対おろそかにしてはいけないのが清掃です。やっぱり清掃あっての施設運営なのは飲食でも温浴でも変わらないと思いますし、そういうところを継続できるか否かで徐々に施設の評価も差がついてくると思います。

うちの施設が予約時間枠のインターバルを30分設けて2人体制で清掃を行っているのはそのためですし、最後のお客さんが帰られてから2時間は清掃を行います。正直「お客様に見えるはずがない」っていうところまでやるようにしています。

あとは、東京の方々にとっては貸切サウナが4000円くらいっていうのは認知されていますけど、静岡だとまだまだ「サウナに4000円なんて高すぎる」と思われてしまっているんですよね。なので、そのイメージをどのように変えていくかは今後の課題としてありますね。


–– 僕からすると都内の貸切サウナよりかなりリッチな設備なのに同じ価格設定で「安すぎる!」と思うんですけどね。


そういうのが口コミで広がっていってくれたらいいなと思います。他の考え方としては、静岡でタトゥーの入った方でも気兼ねなく利用できたり、男女で一緒に利用できるサウナ施設っていうのは珍しいと思うんですよね。

特に貸切ってなると、行楽地の旅館まで遠出しなきゃならないですし絶対数も少ないですけど、それが静岡駅から歩けるところにあるっていうのは売りになるだろうなとは思います。家族で貸切風呂として利用してもらうのも一つなのかなと思ったりもしますね。


※ ※ ※


–– 最後に余談的なことを伺いたいのですが、キャッチーなカニさんのロゴにはどんな意味が込められているのですか?



(キャッチーなカニさんのロゴ)


僕の経営するお店には必ずロゴを作るようにしているんですけど、ロゴがあることでちょっとした会話のきっかけになるんですよね。お客様とスタッフの間で生まれることもあればお客様同士で生まれることもあったり、そういったコミュニケーションの促進が狙いです。

ロゴをカニにするにあたって、実は最初はタコにしてサウナで蒸し上がった状態を表すものにしようかなとか思ったんですけど、調べたら既にタコをロゴにしたサウナ施設があって、カブるのは避けたいなと思ったんです。

泉サウナというのは所在地の地名が「泉町」なのが由来なんですけど、泉にいそうな生き物でカニっていうのもアリだなぁと思いついたんですよね。カニも蒸して食べるものですし。

そういったわかりやすい理由づけに加えて、親しみやすさとなごみを表したものとしてああいったチャーミングなロゴデザインになりました。


–– これは僕の思いつきですけど、今後カニ料理を提供するなんてこともあったりしますか?


やっちゃってもいいかもしれないですね。板前さんをお招きしてカニ満喫コースなんてことをイベント的にやってみるのも面白そうです。めちゃめちゃ高くなりそうですけど(笑)

そういった遊び心も持ちながら、お客様に長く愛される施設になっていけるように今後もコツコツとやるべきことをやっていきます。


《終》

おわりに

お話を終えて、僕は改めて泉サウナのことが好きになりました。それは僕が思っていた通りに、いやそれ以上にオーナーが本気でサウナに向き合っていたからです。

静岡市といえばサウナしきじがあまりにも有名ですが、実はそれ以外にも「桜湯サウナ」「駿河健康ランド」「おふろcafe bijinyu」など隠れた優良温浴施設が多いエリアなんです。そこに僕が知る限りでは最高クラスの貸切サウナが出来てくれたことで、静岡市の温浴の多様性に幅が出来たのは間違いない事実です。

今はまだ泉サウナの認知度はそれほどではない現実ですが、こういった施設がきちんと評価されるようになったらすごく嬉しいなぁと思います。それこそ本編でオーナーが仰っていた通り、共存共栄で静岡市の温浴シーンが活気づいていく未来が来たらどんなに素敵なことだろうと胸が躍ります。

もし今後静岡市に立ち寄る機会があったら、ぜひサウナしきじとさわやかだけじゃなく泉サウナをはじめとした他施設もチェックしてみてください。


(インタビュー/文:やのしん)