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【サウナと経営 vol.2】湯らっくす・西生吉孝さん(代表取締役社長)《前編》

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はじめに

前回、横浜・満天の湯の常務取締役である久下沼さんをお招きして大きな反響を呼んだ『サウナと経営』シリーズ。第二弾は「西の聖地」と言われる熊本・湯らっくすの代表取締役社長である西生吉孝さんにインタビューを行った。

西生さんはTwitter界隈でサウナが盛り上がり始めた2018年時点からご自身でもツイートを積極的に行っており、ご自身の哲学を表明したり、時には施設利用者さんと意見の相違でレスバをするなどして強烈な存在感を示されていた。

その「YesかNoかをはっきり言える姿勢」は、僕にはとてもたくましく見えたし、とても器の大きい方だなぁという印象を受けた。

また、今でこそ「西の聖地」としてイメージが定着しているが、少なくとも僕自身の体感では、2018年頭の時点では「すごい施設が現れた」という程度だった。そこから経営努力を続けられて聖地というブランドイメージの獲得に至ったわけで、そこには西生さんの哲学に裏打ちされた経営の戦略があったはずだ。

その一端でもつまびらかにするために、今回西生さんにオファーをさせて頂くに至った。

前後編にわたる長編になるが、非常に含蓄があり、経営のみならず働き方・生き方にも応用できるものがあるので、ぜひお付き合い頂きたい。

インタビュー

長く続けるためには利益を残すことをきちんと考えないといけない


ーー 普段はどのような経営を心掛けていますか?


リアルな話になっちゃいますけど、「利益が出るように」「現金が残るように」ということを第一に心掛けています。僕が引き継いだ当時は現金がなくてとても大変だったので。

やっぱり商売をやるからには利益はきちんと出していく必要があると思います。それによってスタッフの給与にも反映できますし、お客さんにどれだけ喜んでもらったかの指標にもなりますから。

…って、こんなに生々しい感じでよかったですか?(笑)


ーー はい、むしろそういうのを望んでいたので大丈夫です(笑) 僕の印象ですが、他の施設さんだと短期的な利益に目線がいきがちなところも多いように思います。例えば「リニューアルを想定して経営出来てるのかな?」などと疑問に思うことがあるのですが。


なかなかそういう経営をするのが難しいんですよね。この商売は最初に借金が大きく出来るので、減価償却を計上しながらきちんと利益を出して銀行への返済もして、かつ余剰金としてリニューアルに備えることが必要になります。

それがちゃんと出来ている施設さんっていうのは業界全体の5%もないかもしれませんね


ーー それについてですが、ちゃんと考えているけど思うようにいかないのか、そもそも十分に計画できていないかでいうと、業界的にはどちらの傾向があると思いますか?


あくまで僕の主観ですが、前者の印象が強いです。自転車操業でなんとかなってしまうところもあるので、「出来たらいいなぁ」程度で考えているところもあるんじゃないでしょうか。


ーー 経営母体がどこかでも経営方針は変わってきますもんね。ただ、いち利用者としては「好きな施設が末永く続いてほしい」という想いがあるので、リニューアルを踏まえた経営がポピュラーになってほしいなと思っています。


そのためにはそれこそ利益を残すことをきちんと考えないといけないですよね。スタッフにも一生懸命働いてもらえるようにお給料も上げていかないといけないし。やっぱり仕事に見合うリターンがないとスタッフは辞めていっちゃうと僕は思います。

そういうチャレンジをしてまで存続にこだわらなくてもいいやと思う人が多いのかもしれませんね。


ーー 自分自身が経営者か雇われ店長かでも意識も変わってくるんでしょうか?


お金については立場によって考えるところが違いますよね。雇われ店長さんっていうのは中間管理職ですから、トップと中間管理職では求められるものが変わってきます。

トップはその店の将来的な方向性を考えることが第一で、店長さんはもっと短期的な日々の売上について考えることが求められますから

僕の場合は自分が100%株主ですけれども、例えばパチンコ屋さんが土地活用で温浴施設をやってたりしたらなかなか店長というポジションだと経営を変えていくことは難しいでしょうね。

経営者や株主にお伺いを立てなきゃいけないし、頑張った分の見返りが自分にちゃんと返って来るかも保障されてないですし、モチベーションをどう維持するかが非常に難しいと思います。

僕は雇われ店長さんとは立場が違うから想像になってしまう部分ですけどね。なので、あくまで僕の話は「株主としての立場」だと認識して聞いて頂ければと思います。


湯らっくすで経営を行えていることが楽しいし、それで利益が出せていることが嬉しい


ーー 湯らっくすは「なるべく長く続くように」ということは意識されているんですか?


そうですね、長く続くようにというのは考えています。


ーー それは、「自分が経営を退いた後も存続するように」という風に考えておられますか?


まぁそうですね。「いかに長くやれるか」というのは大事なことだと思うので。そのためにきちんと利益を出すということですね。大変ではありますが、長くやるための体制を築こうと本気で思って取り組めばちゃんと出来ると僕は思います。

ただ、僕は使命をもってそれをやるというよりは、いまの業態で利益を出すことが純粋に楽しいんですよね。僕はお客さんとやり取りしながらというのが好きなんです。お客さんのアンケートを読んでそれに回答してっていうことをしながら湯らっくすで経営を行えていることが楽しいし、それで利益が出せていることが嬉しいです。


ーー 湯らっくすといえば西生社長による毎月のアンケート回答が有名ですが、西生さんの回答はお客さんときちんと向き合った心のこもったものだと思います。


シンプルに回答するのが楽しいんですよね。たまにお客さんと意見がぶつかったりやっつけちゃうこともありますけど、それもひっくるめて楽しいですね。


ーー ポジティブな意見もネガティブな意見もすべて受け入れていらっしゃいますよね。一つひとつに向き合って答えていらっしゃる。そこに芯が通った哲学を感じます。


僕はそういう運営の仕方が好きなんです。一般的に「お風呂屋さんは色んな利用者がいるからこだわりがあっちゃいけない」って言われています。特定のお客さんだけに受け入れられるようなことはやらない方がいいと。

でも僕はそのやり方が馴染まなかったので、「もっと自分の考えに沿ったお店にしてもいいでしょ」と思ってこだわりを打ち出していきました。結果としては、それが今の良い状態に繋がっていると思います。


ーー 過去に居酒屋を経営されたり、今でもヨガスタジオを経営されていますが、そこで培った接客ノウハウや経験というものは温浴施設経営に生きていたりするんでしょうか?


ノウハウというよりも思想という観点においてヨガの影響は大きかったですね。自分の考え方に大きな変化をもたらしてくれたと思います。インドの仏教やジャイナ教、ヒンドゥー教などの思想の影響が特に大きいですね。


ーー どういうところに影響を受けたんですか?


僕は個人主義なところがあって、あまり人とうまくやれないところがあるんです。ヨガは一人で向き合って取り組むものなので、まずはそれがフィットしましたね。

具体的な言葉でいえば、ヒンドゥー教の聖典であるバガヴァット・ギーターにある「要らないものは手放しなさい」「自分が言った言葉は相手に渡ってるからもう悩んでも仕方ない」といった教えや、「自分には役割があるから、その役割を全うしなさい」というのは大事な考え方として肝に銘じています。


ーー それでいうと、ご自身の「役割」とはどのようなものだと考えておられますか?


事業を長く続けることによって利用して下さる近所の方々、お客さんの役に立つ。それが役割かなと思います。


ーー 事業を長く続けることというのはいつ頃から意識されていたんですか?


ヨガを始めたときもそうですし、温浴を継いだときからもずっと意識していますね。


思い切って提案型のリニューアルを行った


ーー ところで、利益を出す第一ステップは「集客」だと思いますが、2017年のリニューアル時はどうやってお客さんを増やそうと思ったんですか?


実はその頃は集客よりも、「自分の思ったようにやろう」と思っていました。あの当時は経営が上手く行っていなかったので、「”このリニューアルで失敗したのなら諦めがつく”ということをやろう」と考えて、思い切って提案型の設備にしました。


ーー ひとつの大きなチャレンジだったんですね。


そうですね。熊本地震があったことで逆に吹っ切れて、腹をくくることが出来ました。


ーー では、その時のリフォームでは自分の全部を出し切った感じですか?


予算もあったので全部はやりきれなかったですが、提案型のリフォームとして打ち出すことは出来ました。そういうことをやったのは、今までによそではあまり例がないことだったんじゃないかなと思います。流行りを追い過ぎずに、自分のやりたいこと重視で作り上げるっていうのは。


ーー 「メディテーションサウナ」や「MAD MAXボタン」は最初から構想にあったんですか?


メディテーションサウナは熊本地震のときに使用したサウナトレーラーを参考にしました。地震の時にスカイスパの金さんやウェルビーの米田さんたちが被災地まで運んできて下さったのですが、それを使ったときに本当に心が落ち着いたんです。その経験が忘れられなかったので「心が落ち着けるサウナを作りたい」と思っていました。

またMAD MAXボタンは、実はサウナマニアの方々のおかげで思い付いたものなんです。新しく深い水風呂を作っているとき、Twitter界隈のサウナマニアさんたちが僕らのリニューアルのことを発見して注目してくれたんです。

そこで彼らが水風呂について熱く語っていて、それを機に「熊本は水がすごくキレイだから、売りになるんじゃないか」と思うようになりました。

更に彼らが「本当は頭から水風呂に入りたいけどほとんどの施設で禁止されている」ということなども語っていて、「だったらもうガンガンあふれさせてやれ!」と思って、現在の水風呂に至るイメージがどんどん湧き上がってきました。


自分たちで地元の文化を探して取り入れることでオリジナリティが生まれる


ーー サウナマニアの方々とは直接コミュニケーションを取られたんですか?


いえ、直接ではなく、彼らがやり取りしているのを見ていただけです。でもそこから多くのことを学びましたね。

サウナと水風呂がセットなのは昔から知っていたので、リニューアルでは水風呂を最初から150cmくらいまで深くして目立たせるつもりでしたが、171cmまで深くするというその数十センチの差は、Twitter上の方々の熱い水風呂への想いが後押ししましたね

そう考えると「自分のやりたいようにやった」とは言いつつも、何かしらの形で人の意見は参考にしていますね

湯らっくすではお客さんからアンケートを回収していて、僕がそこに書かれている意見や要望に回答しているんですが、今月は200通くらい投稿がありましたけど、昔は全然誰も書いてくれなかったんですよ。たぶん「書いても別に変わらないだろう」と思っていたんだと思います。

それじゃいかんと思って、社長室を受付前に移動させたんです。選挙の候補者みたいに「私が社長です」というたすきを掛けて、あめちゃんを置いて、お客さんと直接話したりしながらアンケートにも答えてもらったんです。それで、そこで出た要望などにはすぐ対応するようにして。


ーー 「ちゃんと意見が届くよ」ということを見える化したんですね。


そうです。そうすることで自然と色んな情報が集まって来るようになったんです。そういうやりとりがあっての「自分の好きなように」ですね。



ーー 情報という意味でいえば、西生さんは視察に行かれることもよくありますよね。



そうですね、先日は岐阜県に行ってきました。薬草文化が根付いていてすごかったです。

「織田信長が兵士を癒すために薬草を植えた」という言い伝えがあって、それで薬草文化が生まれたようなんです。熊本でいうならば、加藤清正が土木をちゃんとするために熊本平野の水道インフラを整えたみたいなことで。


ーー 湯らっくすのメディテーションサウナと薬草も相性が良さそうですね。


でもそこに関しては、あくまで岐阜はその土地と薬草が歴史で紐づいているのでそれがフィットしているのであって、熊本は熊本で岐阜の真似をするんじゃなくて土着のものを活かしていった方が良いと思っています。

自分たちで地元の文化を探して取り入れることでオリジナリティが生まれるので、熊本だったら水以外にも馬が名産なので馬油を使ってみるとかがアリなのかもしれませんね。


ーー 「土地の歴史を知る」ということが経営に生かせるということですか?


そうだと思いますよ。特にこれからの時代はそれが顕著になってくると思います。金太郎飴みたいなやり方が通用しているんだかしていないんだかわからない現状ですから、県外から人を呼びたいのであれば、その土地ならではのものを提供すべきだと思います。


《後編に続く》

zakkurisauna.hateblo.jp