ザっくりととのうサウナ入門

サウナ初心者さん玄人さんどちらにも楽しんで頂けるコンテンツを提供しようと努めるメディアです。

【サウナと経営 vol.2】湯らっくす・西生吉孝さん(代表取締役社長)《後編》

ザっくりの更新情報は公式LINEアカウントから!


前編のリンク

zakkurisauna.hateblo.jp

インタビュー(後編)

良いコンサルタントは行き詰まった時に新しい視点をくれる


ーー 話は変わりますが、いつ頃からサウナ王が湯らっくすをコンサルティングしているのですか?


うちは2017年と2018年とで2回リニューアルをしたんですけど、水風呂の深さを171cmにした2回目のリニューアルのときからサウナ王にはお世話になっています


ーー 他のコンサルタントとも付き合いはありますか?


はい、アクトパスの望月さんともお付き合いがあります。望月さんから頂いたアイデアとしては、外気浴をぜんぶぶち抜きにしようというものがありました。他にもこれまで色んな方々のお世話になってきていますよ。


ーー 最近は色々なコンサルタント営業が来たりするというようなお話を他の施設の方から伺ったりするのですが、コンサルタントの上手い選び方や付き合い方ってどうだと思いますか?


経営者の個性にもよりますけどね。誰かに頼むのが屈辱的だと思うような方もいますし。僕なんかも、コンサル頼みだと揶揄されることもあるんですよ。でも僕からしたら、どう言われようが「店が良くなることが一番」だと思っているので気にならないですけど。

コンサルタントによる外部からの指摘がすごくありがたいんです。自分がもってない目線をくれるので。それでいて結果としてきちんと利益があがっているので。


ーー 「コンサルタント料を上回る利益を生み出すきっかけをくれるか」というのがひとつ継続してお付き合いすべきかの判断材料なんですかね?


まぁそれももちろんですが、やっぱり相性の良し悪しもありますよ。サウナ王なんかは結構個性的な人ですから、そこが合うのかどうかっていうところがあると思います。僕の場合はもう20年来の付き合いがあって、相性の良さがわかっているんですよね。

だから今もサウナ王とは良好な関係が続いています。


ーー きっとそういう関係だと、コンサルタントの言いなりになるわけでもなく、お互いに意見を言い合えたりするんでしょうね。


そうですね、周りにそういう人ってなかなかいないですからね。行き詰まった時に新しい視点をくれるので本当にありがたいです。

そういう壁打ち的な意味でもコンサルタントの活用意義はあると思います。


ーー リニューアルみたいな大きなタイミング以外でも、サウナ王は定期的に施設をチェックしに来られてますよね。


はい、意外と食事処の品質については見落としがちだったりするので、そういうところを厳しくみてもらえるのはありがたいですね。

サウナの温度についてもそうで、「サウナ王がくると細かいことを言われて面倒くさいな」とか思いつつも、やっぱりそれらをチェックして細かく指摘してくれる人の存在がすごく大きいです。

他には、僕がスタッフに対して言えないところもサウナ王が代弁してくれるという利点もあって、マネジメント的にも役に立っています。


ーー 西生さんでも言いづらいことってあったりするんですか?


いや、まあ僕は結構なんでも言っちゃうタイプなんですけど、やっぱり僕から言われるのと第三者から指摘されるのでは言葉の重みが違いますよね。説得力が増すというか。


ーー ちなみに、現在も継続してサウナ王にコンサルティングを依頼しているのですか?


はい、そうですね。現在満足しているので、今後もお世話になろうと思っていますよ。


サウナというスペースを利用してショーをやってほしい


ーー 話は変わりますが、今は空前のアウフグースブームですよね。さかのぼっていくと、今のブームの起点になっているのは湯らっくすだと僕は思うのですが、その辺りはどう思われますか?


いやぁ、おふろの国さんが長いこと熱波をやられていましたしね。ニュージャパンさんやスカイスパさん、ウェルビーさんしかり、湯らっくす以前にもアウフグースは各地で行われていましたよね。


ーー 確かに原点にはそういった施設さんがありますし、おふろの国が生んだ「熱波ブーム」もあったと思います。ただ、熱波からアウフグースに注目が切り替わっていった転換点での湯らっくすの存在感は大きかったと思います。こういったブームが来ることは予想されていましたか?


いや、そんなことないですよ。全く思ってもいなかったです。今のアウフグースブームがそのまま進んで行くとどうなのかなとちょっと疑問にも思ったりしますし。


ーー 元々どういう経緯で湯らっくすではアウフグースをはじめられたのですか? 過去には西生さんご自身もアウフグースをやっていたそうですが。


僕もまたやりたいと思っていますよ。最近も練習してますし(笑)

世界的には2000年頃からアウフグースの流れがあったんですよね。その頃サウナ王やスカイスパの金さんなんかとヨーロッパに出かけてサウナ旅行に行って「あぁ、こういうのがあるんだな」と体験していたんです。僕がリスペクトしているニュージャパンさんでもやられていましたし。

なので、僕が温浴業界で働くときはアウフグースをマストで導入したいと思っていたんです。


ーー それでも最初の頃はやり手がいなかったんですよね?


そうです、当時はスタッフみんな全然やりたがらなかったですね。だから今の状況ってその頃から考えるとあり得ないことですよ。最近の若い子たちはアウフグースがやりたくてうちに応募して来ますから。


ーー 湯らっくすのアウフグースが注目されたのっていうのはリニューアル頃が境目になるんですかね?


うーん、はっきりとはわからないですけど、うちは「回数が多い」のと「プロパーで雇ってやっている」っていうのがあるので、それが当たり前として習慣化して徐々に認知されていったのが大きいんじゃないですかね。

ドイツなんかがそういうスタイルで通常営業のプログラムのひとつとしてやっていたので、それを取り入れたまでのことなんです。決して大々的なイベントとしてやっているわけではなかったんです。

ただ、男女浴室でそれを日常業務としてやるっていうのは人件費もかかるし費用としては負担もそれなりにありましたけど、そういうものと割り切って継続していましたね。


ーー 湯らっくすとしてはアウフグースは「プロパーがやるもの」という意識が強いですか?


たまに外部からお呼びしたいと思いますが、プロパースタッフがやるのが基本となっています。それはヨガスタジオ経営での経験によるものです。

他のヨガスタジオでは有名講師を外部から単発で呼んでイベント化しているところもあったんですけど、そういうのはなんか違うなと思ったんです。ちゃんと自分のところでトレーニングして、そこでデビューして育てていきたいと思ったので、それを実践してきたんです。

その育成ノウハウをアウフグースにも適用したという感じですね。事業を長く続けるという視点からいくと「プロパーを育てる」という結論になります

普通のお風呂屋さんだとそういうノウハウってないと思うので、そこに違いがあったのかもしれませんね。ちなみに、うちはマッサージもあかすりも自分のところで育てているんです。そこは僕のこだわりですね。


ーー 湯らっくすとして、これからのアウフグースについて目指すビジョンというのはありますか?


はい、いま強く思っていることがあります。それはアウフグース・マスターだけでなく、人前で何かパフォーマンスをする人たち全てに向けてなのですが、サウナというスペースを利用してショーをやってほしいんです。

これはアウフグースに限った話じゃないのですが、地方のパフォーマーってお金を全然稼げないんですよ。都内だったら小劇場で誰か著名な方に見染められる可能性もありますが、地方だとそんなことはそうそうないんです。でも、サウナの力を借りればそれが出来るかもしれないと思うんです。

それが実現できるように、実は今度大きなステージ型サウナを作ることにしたんです。スカイスパさんのサウナシアターみたいなものです。

ただ、その目的はアウフグースのためだけでなく、アウフグース以外にも様々なジャンルのパフォーマーが披露できる場にしたいんです。単にサウナというより劇場のオーナーになりたかったという話かもしれませんけど(笑)

そうすることできっと新しいお金の循環が発生すると思うし、チャンスも生まれてくるんじゃないかなと思います。


ーー それはすごく新しい取り組みですね。


でもどれだけの人に受け入れられるかはわからないですけどね(笑) やりながら収益化できるようにきちんと策は打っていきます。


お客さんの性質に合わせて、施設もアップデートしていかなければならない


ーー 収益でいうと、それを上げるにはざっくりいうと「収入を増やすこと」と「支出を減らすこと」の二つがあると思いますが、それらについてはどのように意識されていますか?


順序でいえば、まず支出を減らして、それから収入を増やすというのが良いのかなと思います。もちろん同時にやれたらそれがベストですが、中々そんなに器用には出来ないと思います。


ーー 支出の削減も、下手に減らすだけだとサービスの質が落ちてしまう懸念がありますよね。


そうですね、だから結局「いかに売上げを上げるか」というところですよね。そこでいえば、「客数」と「客単価」をどう上げていくかになるんですが、まずは客数を増やすことですよね。それがある程度増えてきたら今度は客単価を上げていくと。ちなみに、いま湯らっくすが取り組んでいるのは客単価のフェーズです。

例えば客数で困っているなら、安くしてでもお客さんに来てもらうなどをしてまず認知してもらうことです。それが十分に出来てきたら、徐々に安売りをやめていけばそれだけでも客単価アップですからね。具体的にいえば、回数券とかサービス券などの発行をやめても客数が維持できれば売上は上がるんです。


ーー 湯らっくすはいつ頃から客単価のフェーズに入りましたか?


コロナの影響は大きかったですね。お客さんが多すぎて混雑すると嫌がられちゃうようになっちゃったじゃないですか。そういった事情を勘案した時に、もう客数から客単価へのフェーズへと移行する必要があるなと感じたんです。

また、サウナブームの影響もあって、以前はサウナ利用者が30%くらいでしたが、今はもう100%と言っていいほどのお客さんがサウナを利用するようになったんです。

それによってお客さんの滞在時間も延びるじゃないですか。回転率でいえば以前より低下しているわけで、だったら客単価を上げていかないとと考えていったという側面もあります。

そういったお客さんの性質に合わせて、施設もアップデートしていかなければならないですね。


ーー 「回数券の廃止」以外に客単価を上げる施策ってどのようなことをされていますか?


先ほども話しましたが、プロパースタッフをどう扱うかということはとても意識しています。他には飲食も意識していますね。


ーー 西生さんがヨガをされているのでヘルシー路線かと思いきや、湯らっくすは意外とガッツリ系ですよね。


ヨガの色んな面を見てきて、「ヘルシーな食事=健康」っていうのは何か違うんじゃないかって思ったんです。やっぱり美味しいものを食べたいじゃないですか。気持ちがヘルシーになるものを食べるのが一番ですよね。

無理に断食したり節制したりして食事をコントロールしても、逆にストレスが溜まっちゃったりするんですよね。大前提として心の余裕を大事にしたいんです。


自分が良いと思った事をやっていけばオンリーワンになっていく


ーー こちらで最後の質問とさせて頂きますが、今の温浴業界的に存在する課題をひとつ挙げるとしたら何があると思いますか?


正直なところ、僕は業界に対してどうとは思わないんです。自分の良くないところかもしれませんが、あまりそれ自体に興味がなくて、それぞれが好きな様にやれば良いと思っちゃうんですよね。僕が何か物申すというのもおこがましいですし。


ーー 言われてみれば、西生さんってあまり特定の集団内にいる印象がないですよね。


シンプルに他の人とやっても上手くいかないんですよね。自分でそれをわかっているから。きっと変なことをやって迷惑をかけちゃうんですよ。


僕自身は、トレンドの中心地である東京ではない地方の人間なので、東京を真似ていても二番煎じに過ぎないものと考えています。他人の成功事例など気にせずに自分が良いと思った事をやっていけばオンリーワンになっていくと思うんですよね。


ーー では、西生さん的には「各地で色んな施設が十人十色でやってくれた方が楽しい」っていう感じですかね?


そうですね。だからこないだの岐阜視察は、東京にはない岐阜独自の温浴文化が感じられてとても楽しかったです。


ーー 東京ではどんどん新しいものが生まれていますもんね。


ほんとどんどん出てきますよね。じゃあそういうものを取り入れるかっていうと話は別で、僕の中でグッと刺さるものがあれば取り入れますけど、そうじゃないものは流行っていても無理に組み込むことはないですね。


今の環境でサウナを知った若い子たちが今後どのようにサウナに変革をもたらしてくれるかが楽しみ


ーー 西生さんからはパンク精神がひしひしと感じられます。その点でいうと、サウナブームにおけるメディアの伝え方ってどうしても画一的になってしまうじゃないですか。「サウナ、水風呂、外気浴でととのう」みたいな。それについてはどのように思われますか?


最初は形から入るので全然構わないと思いますよ。3セットやってととのってオロポ飲んでみたいな。そこから次第にサウナのことがわかってくると思うので。守破離という考え方のように、基本を押さえてから応用を知って、その後に独自の楽しみ方を見出していくものだと思います。

だから、サウナを覚えたての若い子とかは今はただただ楽しんだら良いんだと思います。そういうわかりやすい道筋を作ってくれたメディアには感謝ですよね。

それこそ、今の環境でサウナを知った若い子たちが今後どのようにサウナに変革をもたらしてくれるかが楽しみですよね。

野球で例えるなら、二軍でハッスルしてプレーしている選手たちを観戦して、どう育って一軍で活躍するかを待ち遠しく思うような気持ちですね。


ーー 確かに、今のカルチャーを基本として育った世代が独自性を備えていったら新しいものが生まれそうで楽しみですね。


でももしかしたら、もう既に何かが生まれつつあるのかもしれませんよね。昨今のテントサウナシーンだってすごいなぁと思っているんです。


ーー 湯らっくすで新しくやりたいことはまだまだあるんですか?


この場所でやりたいことはそんなにないですね。それよりも、「場所を変えてやってみたい」っていうのはありますね。違う場所で二号店をやってみて、そこでも僕のやり方が受け入れられるかということに興味がありますね。


ーー それはサウナファンたちの期待値が高まりますね。


面白いことをしたいですね。自分がやってたことが気づいたら業界のスタンダードになっていったりしたらすごく嬉しいなと思います。また逆に、今まであった習慣を疑う気持ちは常に持ち続けたいとも思っています。


ーー 深い水風呂の施設が増えましたが、あれは確実に湯らっくすが火付け役になりましたよね。


それは本当にうれしいことですね。


ーー 湯らっくすがこれからも新しい提案をされるのを期待しています。


そうしていきたいですね。でもそのためにはお金が必要なので、そのためにもきちんと利益を出し続けていくことに努めます。


(インタビュー・文:やのしん)


《終》