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【行政トラブル】担当者のさじ加減で突然開業NG?! サウナ施設OPEN前に苦闘する前田祐司さんを直撃《前編》

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はじめに

※こちらのインタビューは2023年7月下旬に行ったものです

昨今のサウナブームを受けて、各地で多くのサウナ施設やサウナイベントが誕生しているが、実際にスタートさせるまでに結構な苦労があったらしいという噂はちらほらと聞いていた。

そんな中、行政トラブルにより開業がとん挫している施設があるということをSNSのタイムラインで知った。この記事を公開した2023年10月現在は無事にオープンの目途が立っているのだが、今回はそこに至るまでの経緯を当事者の前田裕司さんにインタビューでお伺いした。

もし今後新たにサウナで何かをしようとしている方にとって少しでも参考になればと思うし、ユーザーの方々にも、裏でこういう苦労があったりしてサウナが利用できているのだと知って頂けたらと思う。

プロフィール


前田 祐司
公務員からの海外転職を経て、新たな挑戦を求め故郷の養老渓谷にUターン。
美しい自然に囲まれた環境でアウトドアサウナ施設を開業予定で、過疎化が進む観光地の活性化に情熱を注ぐ。
地元の石神なの花畑や田んぼラグビーの運営にも携わり、持続可能な観光の推進や地域文化・歴史の保護にも取り組む。
地域住民と協力し地域全体を活気づけ、人々の笑顔があふれる魅力的な地域づくりに貢献することを目指してコミュニティの構築に奮闘中!

インタビュー

トイレを巡り保健所とトラブルになってしまっている



ーー 前田さんは現在、どんなサウナ施設を開業しようとしているんでしょうか?


千葉県の養老渓谷で男女混浴のアウトドアサウナ施設を作ろうとしています。養老渓谷は元々自分の地元で、温泉街がある観光地で昔は賑わっていたのですが現在はさびれてしまっており、人口が減少して少子高齢化も進んでいます。

豊かな自然が残っていることやローカル線が走っていることなどの資源から観光客は多少来るんですが、せっかく来てくれても少ないコンテンツに満足して短期で帰られてしまいます。

そんな温泉街を再び盛り上げていきたいという想いから、新しいコンテンツとしてアウトドアサウナ施設を開業しようと一念発起しました。



ーー そんな施設の開業にあたって現在トラブル発生中だというのを前田さんのfacebookの投稿で拝見したのですが、詳しく教えて頂けますか?


まず簡潔に言うと「保健所とトラブルになってしまっている」ということなんですが、順を追ってお話していきます。

今回アウトドアサウナ施設を作るにあたり、保健所には最初から相談して計画を進めていました。図面を作る前から相談し、図面が出来上がったらそれを見せて、確認してもらうなどして。その段階では特に指摘が上がらなかったので、実際に施工を開始しました。

それで施設が完成したので営業認可の取得申請をしようとしたら、その段階になってまさかのNGを出されてしまったんです。

そんなことが起きたのには理由があって、図面を確認してもらったのが3月頃で、申請をしようとしたタイミングが5,6月頃なのですが、その間に保健所の担当者が異動により変わってしまったんです。前任者から新任者へ情報の引継ぎがなされておらず、新任者の判断だと「この建物の構造だと許可が下りない」とのことなんです。

※ ※ ※

指摘されている主な箇所は「トイレの位置」なんですけど、私の施設の男子更衣室には小便器しかなく、大便器は更衣室を出た共有スペースにトイレがある造りになっているんですね。女子トイレには大便器があるものの、単独の洗面器はなく大便器に備え付けられた手洗管しかありません

新任者いわくそれらがNGで、「男女それぞれ裸で行ける所に大便器を設置し直してください。また独立した洗面器を付けないといけません」と言われました。要は更衣室の中に大便器を作り、独立した洗面器も設置しなさいと。

でも、千葉県の条例には「入浴者が利用しやすい場所に男女別に便所を設け、かつ、流水式手洗い設備を設けること」とのみ記述があるだけで、国の公衆浴場法も「男女それぞれの脱衣室等入浴者が利用しやすい場所にそれぞれ便所を設けること」とあるだけなので、決して更衣室内に限定しているわけじゃないんです。

つまり、なぜか保健所が条例や法律より厳しい条件を求めてきているということなんです。

それをこちらが指摘しても、新任者は「条例に明記されているわけではないが、昔からそういう慣例になっている」と言うんです。それについて根拠を尋ねても、ロジカルな回答が返ってこないから話し合いにならず困っています。


ーー 担当者によって判断にブレが生じるというのは好ましくないことですね。


はい。その後に私は千葉県の全部の保健所に対してトイレの位置について確認を行ったのですが、半分以上の自治体は「更衣室の中にトイレがなくても大丈夫」という回答がありました。同じ県でもエリアによって判断が違うということがわかりましたが、それはそれでおかしいことですよね。

世田谷区が管轄する世田谷保健所や千葉市が管轄する千葉市保健所での事例を出しても、担当者からは「他のエリアの法令なので、担当地区の条例には当てはまらない」と回答を受けました。

せめて千葉県庁が管轄するエリア内での判断は一致させてもらいたいものです。

県議会議員と弁護士に相談して協議している



ーー ちなみに、建物はもうオープン出来る状態にあるんですか?


はい、元々7月15日にオープンする予定で動いていたので。今はなんとか秋ぐらいにオープンできればいいかなと思っているところです。現在はまだ営業ができない状態なので、地元の友人にモニター利用してもらい都度改善を行っています。

なお現在、認可を得るために2つのアプローチを行っていて、ひとつは地元の県議会議員を通して県の意見を伺うことです。保健所というのは県の管轄なので、議員さんのサポートを活かして県の協力を扇ぎたいと思っています。ただ、既に動いてもらって一度話し合いの場を設けたものの成果が芳しくなかったのですが…。

※ ※ ※

もう一つは弁護士を通して働きかけることです。弁護士さんには色々アドバイスをもらっていて、「保健所の主張には法的な効力がないから、とりあえず許可申請を出して良いと思う」という意見を頂いています。

私はいま申請を出す直前の段階なのですが、仮に申請を行って却下となる場合は必ず却下理由が提示されることになるそうです。でも保健所の主張には法的根拠がないから、却下できずに申請が通る可能性があるらしいのです。

今はまだ申請前の確認なので担当者が自分の主観でNGを出せますが、実際に申請を出してしまったら正式な手続きとなるので主観が通用せず、結果的にそれが通ってしまうことがあるのだとか。

また、申請が却下された場合は損害賠償請求をすることもできます。過去には一般公衆浴場法の関連で賠償請求になった事例もあります。なので、もし申請が却下されたときの却下理由に正当性を欠く場合は、過去の事例を添付した上で再申請する予定ですが、それでもこじれてしまう場合は裁判になる可能性もあります。

どの方法をとるかは時間と費用を考慮して決めることになります。担当者は「早く営業したいのであれば、こちらの言うとおりにやった方がいい」と言ってきますが、ただ言いなりになるのは釈然としないので納得のいく方法を選択したいです。



ーー トラブル発生後も迅速に対策を検討されている印象ですが、その辺りの取り組みは自発的に行われたのでしょうか?


そうですね。地元の議員を頼ったこと、弁護士さんへの相談は自分自身で考えて動きました。

それ以外にも、千葉県のすべての保健所に電話で本件について確認しましたし、今回揉めている保健所の管轄内に、更衣室以外のところにトイレがある施設が存在するかの調査も自分で行いました

そうしたら実際に、管轄内で更衣室外にのみトイレを設置している温浴施設があったんですよ。ということは前例があるので、保健所が主張していた「昔からトイレは更衣室内という慣例」という前提が崩れることになります。


ーー そうすると相手はぐうの音も出ないですね。


そうなるはずだと思っています。ただ、担当者とはロジカルな会話が成立しておらず、それなのに向こうは意固地になって自身の主張がさもロジカルで正しいかのように言ってくるので話が通じない可能性もありますが、ひとまずリトライしてみます。



ーー ところで、県議会議員さんとのつながりは以前からあったんですか?


はい。これは田舎の特徴なんですけど、田舎の県や市の議員さんというのは住んでいる地域ではすごく身近な存在なんです。誰かしら必ず地元の地域から一人は出している、みたいな感じで。

その中でもたまたま同じ中学校の先輩で旧知の方がいたので、今回連絡して相談させてもらいました。それで県庁に話を通してくれて、保健所と県庁の担当者と私の三者での打合せをすることが出来ました

そこで私が「保健所の解釈は間違っているんじゃないか」という主張をしたんですね。ところが、県庁の担当者さんは「県庁は条例の説明はできるが現場の判断を下すのは保健所です。だからこちらから見解は何も言えません」と言うんです。

でもそれは間違いで、千葉県知事は保健のことを保健所に委託していますが、千葉県知事にも決定の権限は付与されています。だから、知事の代理である県庁の方も見解を述べる権利があるはずなんですよ。保守的な方ほどそういった間違ったことを堂々と言ってくるので本当に困ってしまいます。

お盆前に一度、県議会議員さんと共に県庁へ訪問して再度説明を求める予定です。


ーー 県庁の方を挟んでも建設的な意見交換ができないのは辛いですね。


基本的には法律や条例に則って対話すべきなのに、法律や条例にない不合理なルールをさも当たり前のように主張されても参ってしまいます。

ちなみに今回、千葉県の保健所すべてに連絡した時に分かった傾向なのですが、千葉市を境に北部の方々はきちんと話を聞いてくれて、説明も丁寧でロジカルでした。きちんと条例や状況を理解して発言してくれました。

逆に南部の地域はすごく保守的な傾向で、きちんとした説明や理由付けはなく、こう決まっているのでその通りやってください、例外は認めません、みたいな。


(後編につづく)

zakkurisauna.hateblo.jp