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【行政トラブル】担当者のさじ加減で突然開業NG?! サウナ施設OPEN前に苦闘する前田祐司さんを直撃《後編》

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インタビュー(つづき)

行政トラブルの事例集がネット上などでまとまっていると助かる



ーー ところで、今回の件をSNSで発信した反響ってどうでしたか?


今回facebookとTwitter(現:X)に「こういうトラブルに遭って困っていて助力を願います」という旨の投稿を行いましたが、特にTwitterでの反響が大きかったですね。多くの方がいいねやリツイートをして下さいました。リプライも下さったりして、すごく励みになりましたね。

また、facebookでも有効な意見をもらえて、地元の友人が「市内にサウナ付きのジムがあるが、更衣室にはトイレがなくて共用のトレーニングエリアのスペースにのみあった」という事例を教えてくれてすごく助かりました。


ーー このような行政トラブルがあったとき、前田さんは行動力があったのでご自身で対策が立てられたと思いますが、困惑して諦めてしまう方も少なからずいるのではないかと思います。前田さん的に「こういうサービスとかあったらトラブルの時に助かるな」と思うものはありますか?


今回のケースだと、私がfacebookで困ってる現況を投稿したときに、役所勤めの友人などが具体的なアドバイスをくれたのもすごく助かりました。ドンピシャで県庁勤めの人もいたので、弁護士さんと同じ意見を事前にもらったりもしていたんです。まぁこれは田舎だからそういう繋がりが身近にあったということもありますが。

そういう経験を踏まえると、サウナ施設開業時の行政トラブルの事例集がネット上などでまとまっていると助かると思います。どんな問題が生じて、どんなプロセスでどう解決に至ったかという事例に簡単にアクセス出来たら良いのかなと。



ちょっと余談にはなりますが、今回の保健所とのやり取りで、彼らは記録を残したがらないことがわかりました。事前に確認してもらっていた図面にも了承済みなどのサインをくれたりしていれば、ここまで問題になっていなかっただろうと思います。

またこちらの質問に対し「回答を文書で下さい」っていうんですけど、彼らは必ず電話してくるんです。文書という証拠を残したくないんですよね。私はそれで終わらないように、電話の内容をメールに起こして「今日の電話での会話の内容ってこういう認識で合っていますか?」とリマインドしていますが。

公務員の方は、安定志向ですから、業務においても波風立てたくないんですよね。条例よりも厳しくしておけば問題が起こる確率が減るわけで、だからそういう対応をしちゃうんだと思います。

※ ※ ※

実は、私自身も元公務員なんです。理系卒でメーカー入社希望でしたが、リーマンショックの翌年だったので採用枠が少なく、なんとか東京都の外郭団体に入社しました。しかしそこも「波風立てずに言われたことだけをやればいい」「前例がないことはやらない」という方針でした。そんな組織風土が合わずに退職しましたが。

石川県羽咋市のスーパー公務員といわれた高野誠鮮さんが「地域社会にとって何か役に立つ。だから『役人』なんです」と仰っていましたが、そのような人が増えないと地域はどんどん衰退していくばかりだと思います。



ーー 今回のトラブルを経て、行政の在り方の課題をリアルに感じられたわけですね。


そもそも県や市は、民間に積極的にビジネスを展開してもらいたいと考えています。しかし実際のビジネスを起こそうとする時、今の時代にそぐわない法令や条例などの規制の壁にぶつかり、結果として民間のビジネス展開が難しくなっています

今の時代にそぐわない法令や条例はたくさんあり、積極的に改正して民間が挑戦できる環境になればいいなと考えます。福岡市などはそういう気風があり、良い事例だと思いますが。

※ ※ ※

サウナにおける困った例を挙げると、条例の中には「サウナに窓をつけなければならない」というのがあるのですが、同時に「脱衣所もしくは洗い場からサウナ内を見えるようにすること」となっています。

この条例とテントサウナの相性がすごく悪いんです。テントサウナって屋外に設置するものだから、基本的に洗い場や脱衣所からは見えないものじゃないですか。安全上の理由で窓を設置する意味はわかるんですが、後者の条例がある理由ってあくまで「町の銭湯」しかなかった時代の考え方だと思うんです。

テントサウナでも、人目の多い面に窓が設置されれば安全性は充分だと思います。そのように、現在は温浴(銭湯)のスタイル自体が拡張されてきたわけですから、法律も拡張された世界に適した表現に変わって欲しいですね。


ーー これは温浴の分野だけでなく、全ての分野において言えることですね。


ちなみに、今回の件について、地元の人はすごく応援してくれています。特に地元に残っている若い人たちは、とても好意的に捉えてくれていました。地元の消防団の方々が施設の草刈りを買って出てくれたりもして、とてもうれしかったです。



ーー 地域のために活動してくれる人の取り組みは、本来嬉しいことのはずですもんね。


そうですね。過疎化が進むこの地域で、新しい取り組みがされる事を嬉しいと感じてくれていると思います。

地元出身者がUターンで帰ってこれる場所にしていきたい



ーー ここで話題を変えますが、サウナ事業そのものについてチャレンジされた背景をお伺いできますか?


2022年5月にサウナ好きの知り合いが養老渓谷に遊びに来てくれたときに、冷泉であることに着目して「冷泉を水風呂にしたらウリになるよ」と言ってくれました。

私はそれまであまりサウナに入らなかったのですが、それを機にサウナへの関心が高まりどんどん好きになっていきました。加えて、冒頭でも言った養老渓谷の観光活性化への想いとが相まって、養老渓谷の豊かな観光資源を活かしてサウナ事業をしようと思い至りました。

その年の夏頃から計画を立て始めて、今年の春になって実際にサウナを施工し始めたという流れです。


ーー 施設の特徴について詳しく教えて頂けますか?


まず第一は水着で男女混浴で入れるアウトドアサウナ施設だということですが、目玉は源泉の冷鉱泉水風呂です。温泉街だから温泉が出るのですが、養老渓谷の温泉は冷泉です。温泉宿ではそれをボイラーで沸かして温泉にしていますが、サウナならそれがそのまま水風呂にできるのでコスパも良いです。

それとは別に井戸水の水風呂も用意しています。すぐ脇には養老川も流れているので、階段を設置して川を水風呂代わりに利用することもできます。冷泉と井戸水と川を好きなように選べるのは水風呂として贅沢な環境かなと思います。

※ ※ ※

他にも、施設周辺はすごく静かな場所で、緑が多いのも魅力です。川のせせらぎや鳥のさえずりも聞けて、遊びに来た友人などは気持ち良くてみんな寝てしまいますね。

あと近くには、2020年に新たな地質年代として制定された「チバニアン」の地層が見れる場所があるんですけど、うちの施設の崖にも断層が見えるので、ここの断層はほぼチバニアンですね(笑) 冬だと断層から沁み出た湧き水でできるつららも見れます。


ーー 施設には宿泊設備はあるんでしょうか?


いえ、宿泊設備は設けていないです。ただ、温泉街なので、近隣に宿泊するところは沢山あります。お客さんにはそちらで泊まってサウナを楽しんで頂くことで、養老渓谷全体が少しでも潤えばいいなぁと思っています。


ーー 前田さんの施設がきっかけになって、養老渓谷の観光も活気づきそうですね。


観光業を復興させることで、少しでも地元出身者がUターンで帰ってこれる場所にしていきたいですね。


ーー 現在、養老渓谷は少子高齢化が進んでしまっているんですよね?


はい、ほとんどがもう70歳以上の方ですね(※)。人口はどんどん減っていて、小学校も昔は地域に5校あったのが1校に集約されてしまいました。そこの今年の新1年生も10人程度です。

また、働き口もないので若い人のほとんどは外に出て行ってしまいます。そういう状況を変えるためにも、行政には民間が地域のためにやろうとしてるチャレンジを後押ししてもらいたいと切に願います。


(※)養老渓谷のある市原市南部の加茂地区における15歳未満の若年層割合は4.5%、65歳以上の高齢層割合は46%(2017年・参照元:市原市)


(おわり ※追記につづく)

追記 ~その後の進展~



8月10日に県議会議員さんと共に県庁へ訪問しました。県庁側は2名が出席されましたが(恐らく担当の部長かと思われます)、話し合いというよりはこちらの現状を聴いてもらい、今回の経緯をまとめた資料を渡しただけになりました。

その後県庁から「問題になっていた所は大丈夫そうだ」という連絡があったことを、8月最後の週に県議会議員さんから教えて頂きました。

更にその後、保健所から「条例の説明をしたいから一度来てほしい」との連絡がありました。そして9月頭に保健所に出向き、千葉県庁からの回答を保健所から受けました。

この時担当者からの謝罪はなく、今までのことが何もなかったかのように県庁の条例の基準の説明を受けました。その内容は、以下になります。

条例にある「入浴者が利用しやすい場所に男女別に便所を設け、かつ、流水式手洗い設備を設けること」について、


今までの保健所の回答)便所は、大便器でなければいけない
今回の県庁の回答)  便所は、大便器もしくは小便器でも可


今までの保健所の回答)流水式手洗い設備は、大便器に備え付けの手洗い管ではいけない
今回の県庁の回答)  流水式手洗い設備は、大便器に備え付けの手洗い管でも可

というものでした。

ただ、今までのトラブルの焦点であった「トイレは脱衣室に設置しなければいけない」ということに関しては何の回答も得られませんでした。というのも、うちの施設には元から男子更衣室に小便器を設置してあったので、それによって基準をクリアすると見なされたからです。

しかし、国の法令や県の条例、他の県内エリアの保健所の回答や市内の既成事実等を総合的に判断して、「トイレは脱衣室に設置しなければいけない」ということはないと判断できそうです。

※ ※ ※

今回の県庁の条例に対する考えは、今までの市原保健所や県庁の担当者の考えとは違い、もともとこちら(前市原保健所の担当者も然り)が考えていた通りでした。

このことで、無意味なやり取りを4ヶ月もしていたことになります。オープンが遅れたことで夏休みシーズンに営業できなかった機会損失を考えるとトホホです。無駄でなかったとすれば、公衆浴場法の内容に詳しくなったことくらいだと思います。

※ ※ ※

最後になりますが、何とか営業の許可が下りたアウトドアサウナ施設のオープンを目前に、千葉・茨城を襲った台風13号の被害を受けてしまいました

建物に大きな被害はありませんでしたが、施設の一部が増水した養老川に流されてしまいました。復旧作業を進めるにあたって、クラウドファンディングを実施することにいたしましたので、もしよろしければ可能な範囲でご支援をお願い申し上げます。

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プロフィール

前田 祐司
公務員からの海外転職を経て、新たな挑戦を求め、故郷の養老渓谷にUターン。
美しい自然に囲まれた環境でアウトドアサウナ施設を開業予定で、過疎化が進む観光地の活性化に情熱を注ぐ。
地元の石神なの花畑や田んぼラグビーの運営にも携わり、持続可能な観光の推進や地域文化・歴史の保護にも取り組む。
地域住民と協力し、地域全体を活気づけ、人々の笑顔があふれる魅力的な地域づくりに貢献することを目指してコミュニティの構築に奮闘中!