ザっくりととのうサウナ入門

サウナ初心者さん玄人さんどちらにも楽しんで頂けるコンテンツを提供しようと努めるメディアです。

ザッくりサウナと生きていく ~ザっくり管理人 やのしんインタビュー~

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はじめに

やのくんは、IT企業で営業担当をするかたわら「サウナ活動家」として「ザっくりととのうサウナ入門」を運営し、数多くのサウナ・銭湯のイベントを開催している。

現在、たくさんの人に囲まれ、サウナを通して人と人をつなぐ活動をするやのくんはとても生き生きとしているが、それまでは夢中になれることが見つからず、自分の殻を破れない葛藤の日々があったそうだ。

今回は本ブログ「ザっくりととのうサウナ入門」への思いと、東京での約10年間にわたる心が迷子だった日々についての話を聞いた。

1、僕のために作ったブログが「みんなのため」のブログへ

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——まず、現在のサウナ活動家としての活動内容を教えて下さい。


メインは「ザっくりととのうサウナ入門」の運営です。サウナ関連の情報を発信したり、サウナにまつわる人たちへインタビューをして発信しています。
サウナ・銭湯イベントの主催もしていて、これはサウナや銭湯が好きな人達が繋がる目的と、初心者の人がサウナや銭湯にデビューするきっかけづくりとして行っています。
あとは、サウナや銭湯に関係のないイベントへ「サウナ活動家」と自称して参加することで、サウナに興味を持ってもらうきっかけを作っています。

初心者用のブログを作ろう

——現在の活動の軸となっているサウナブログ「ザっくりととのうサウナ入門」は何がきっかけで生まれたのでしょうか?


エンジニアとして3年半ぐらい働いていたんですが、ちょっとしたパワハラにあっさり屈してメンタルを崩してしまいました。会社から3週間の療養期間をもらいましたが、メンタルに不調をきたした人が家に引きこもったら余計に調子が悪くなると思い、何かブログでも始めようと思ったんです。

そのとき一番ハマっているものをテーマにしようと思って、それがたまたまサウナだったんです。
人と同じことをしてもしても仕方ないと思ったので、ありとあらゆるサウナのブログやメディアを研究しました。施設探訪系が圧倒的に多かったのですが、その二番煎じをやっても面白くないし、写真を撮ったりするマメさは自分には無いなと思いました。

自分が発信したいと思えるもので、かつ読者が喜んでくれそうなものといえばサウナ入門者向けの情報でした。2018年当時はそういうサイトがあまり充実していなかったんです。

当時は4、5年ぐらい前からゆるやかに右肩上がりのサウナブームが来ていたので、どこかでバーンと大きなブームが来たときに、そういうアクセスしやすい情報源がないとブームが息切れするだろうと思いました。
そのために僕のブログがあれば、サウナ初心者がサウナの階段を登り始める第一歩になって、ブームの息が長くなるサポートが出来るんじゃないかなと思ったんです。

読者同士が共鳴し合うブログへ

——「ザっくりととのうサウナ入門」は、開設後順調にPVを伸ばし、特にサウナ好きの人へインタビューする「サウナーインタビュー」のコーナをきっかけに更にPVを伸ばしました。
このコーナーはインタビューという形式で有名無名問わず、個人のサウナとの出会いやサウナ観を語るもので、今では140名以上の方がインタビューに答えています。今では「ザっくり〜」を特徴付けるコーナーになっていますね。


元々はサウナ好きの友達をインタビューしていたのがはじまりだったんですけど、10人いかないぐらいですぐに人脈切れを起こしてしまって、公募することにしたんです。
そこで割と早いタイミングで、シダトモヒロさんという、古参のサウナブロガーさんが手を挙げて下さったんです。
そうしたら、その影響もあって応募が次々とやってくるようになりました。
サウナで気持ち良くなるってすごく個人的な体験なんですけど、それをみんな語りたいし、他人のサウナ観も知りたいものなんだなぁという発見がありましたね。
でもやっぱり、シダさんあってのことなので、今でもシダさんには感謝の気持ちでいっぱいです。


初心者のためのサウナ情報を発信したいという思いから、読者同士でも発信し合い、体験を共有することの一役を担うようになったサウナブログ。
しかしもっとサウナについて知ってもらうために、発信の場所をオンラインからオフラインへ切り替えることを決意した。

2、直接顔を合わせることで得られるもの

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オンラインからオフラインへ

初心者のサウナの階段の一段目として立ち上げたブログですが、それから先はサウナへ通うようになってもらうことが目標です。そのためにはオンライン上で情報を発信するだけでは後押しがいまいち足りないので、リアルの場で生きた知識を吸収することや、自分自身がトークで発信する力をつける必要があると思いました。

そのために、2018年の中頃からサウナイベントへ参加し始めました。
その後、2019年から自分が主催者としてサウナのトークイベントや交流会を行って、ファシリテーション力を身につけていきました。

また、サウナ以外のイベントや交流会にも積極的に参加して、自身のことを「サウナ活動家」と名乗るようにしました。僕がそう名乗るととても興味を持ってくれて、その流れでサウナの話も聞いてくれたのでかなり効果がありましたね。

「誰かのきっかけづくり」としての役割

ーーイベントに参加したり、主催することで何か得たことはありましたか?


かなり上質な情報収集ができたということがまずあります。
でも、イベントの参加者には僕よりもサウナや銭湯に詳しい人たちがたくさんいるのに、自分で発信している人はほとんどいなかったんです。
それはすごくもったいないことだと思ったので、僕は色んな方に発信することを勧めてみました。中にはブログを始めたり、イベントへ登壇をするようになった方もいます。

僕の存在が、人が何か行動を起こすきっかけになってくれたらな、と思っています。僕自身がコミュニティやサウナ界隈のリーダーになりたいわけでは全くないです。みんなが知り合いになって、気の合う仲間を見つけて欲しいと思っています。

3、僕はずっと迷子だった。

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自分と向き合うための大学時代

——そもそも私がやのくんと知り合ったときは、サウナの「サ」の字もなかったですよね。やのくんが突然、サウナ活動家になって正直驚いています(笑)
そもそも大学進学のために静岡から上京したときは、将来をどのように思い描いていましたか?


まず、大学進学自体を迷っていました。高校3年生の夏の時点で。当時はやりたいこともなくて、両親に学費を払ってもらって進学することは甘えだと思っていました。

でも親と話をすると、どうやら僕が大学に進学することが親孝行になるらしかったんです。それじゃあモラトリアム期間ということで親に甘えようと思って、大学に進学しました。


——では大学在学中に自分のやりたいことを見つけようと思っていた、と?


そうですね。やりたいことというか、小学校高学年頃から自分の殻に閉じこもるようになってしまったんです。自分をうまく人に開示できなかったんですね。
それが結局高校卒業まで続いてしまったので、その殻を大学在学中に破らないと、未来はないぞって直感的に思っていました。

僕にとって殻を破るとは、「やりたいことを見つけて夢中になること」「自己開示する」ということでした。その2つをなんとかして在学中にやり遂げようと考えていました。


——大学時代にそれは実現しましたか?


結果的には完全に殻を破り切ることはできませんでした。でも自己開示については、大学の授業で大きなヒントを得たんです。大学3年の時に履修した「自己表現論」という授業なんですが、誰かを深く理解したり、深い信頼関係を築くには、まず自分から心の内を開示しようということに一貫して取り組む授業で、自己開示の訓練を授業の中で行うんです。

「1万2000字レポート」が僕の殻にヒビを入れた

授業の課題レポートに1万2000字で「自分の長所を書く」という課題がありました。そこで今まで自分の内側に溜め込んでいたものを初めてちゃんと吐き出せたんです。
小学生の頃からずっとコンプレックスに思っていたことをレポートに書いて提出して、当時僕の友人・知人が多く利用していたmixiにも投稿したんです。そこで初めて隠していたコンプレックスを提示できた気がしました。


——大学3年生というと就活が始まる時期です。自己開示のスタートに立ったものの、夢中になれることにはまだ出会えていなかったわけですが、卒業後の進路についてはどのように考えていましたか?


まず、このまま就活してしまうと、自己開示をここで止めてしまうと思いました。
就活をしてまた自分の殻を作るか、自分の殻を破るために就活しないかという2択を迫られたんです。僕は殻を破る方を選びました。だから就活をしませんでした。

夢中になれること=お笑い?

けれど、その当時はまだ夢中になれるものとはまだ出会えていません。ただ、そのときの僕のひとつの可能性として、お笑いが好きになっていたことがありました。僕がすごく面白いと思う友達に「お前にも笑いのセンスがあるよ」と評価してもらったんですよ。
僕にはお笑いでやっていけるのかもしれないと思い、お笑いの構成作家をとりあえず目指すことにしました。


——大学4年生の頃から、芸能事務所で構成作家見習いになったんですよね。構成作家のお仕事には夢中になれましたか?


なれませんでしたね。事務所から与えられた最低限の仕事しかしませんでした。本当にやる気のある作家さんは、芸人さんと仲良くなって一緒にネタを作ったりするものなんですけど、そういうことは一切しませんでした。

そもそも「お笑いのセンスがある」と思ってるのに、芸人を目指さずに作家になるというのは「逃げ」なんですよね。まだそこまで自分をさらけ出す度胸がなかったんです。

結局、お笑いのジャンルでは自分の殻を破れないなと思い、大学卒業後の半年ぐらいで構成作家は辞めてしまいました。


——自分の殻を破るための「夢中になれること」探しだったわけですが、就職して夢中で仕事をする人もいます。大学を卒業してしばらく経ったあとも、就職するという選択肢はなかったのでしょうか?


極端に考えがちだったんですが、働くという行為自体が社会の歯車になるようで嫌でした。「殻を破る」と真逆のことだと思い込んでいました。
それに、本当に自分のやりたいことを見つけなければいけないんだ、という思いに縛られていましたね。
人には皆、やりたいことがあって、何かのスペシャリストにならなければいけないという強迫観念がありました。

自己開示を押しつけてはいけない

「夢中になれることをみつけたい」その思いと同時に、大学時代の1万2000字レポートを皮切りに2日に1回はmixiで自分のことを書き綴り、気のおけない友人と話をすることで、自己開示を続けていった。しかし、その自己開示欲は、だんだんと薄らいでいくことになった。


小学校高学年から感じていた抑圧感が次第に薄れていったんです。
それと同時にmixiを2日に1度更新していたのが、3日に1度、1週間に1度と更新頻度が落ちていきました。自分のことを知って欲しいという思いがだんだんと落ち着いていったんです。

それは僕が、自分の発信を受け取る側の気持ちも想像できるようになっていたから、という理由もあります。
mixiに書いていたことは、人から嫌煙されてもおかしくないような激しい好き嫌いの話や、うつ病の薬を飲んでいるという深刻なことまで書いていたんです。

そういう話を、受け取る準備ができていない人にまで発信することは、いいことではないことに少しずつ気づいていきました。
そういうのは直接会った人と、機会があれば話せばいいやと思えるようになりました。一方的な押しつけは良くないですね(笑)


——自己開示欲について一区切りついたところで、何か心境の変化はありましたか?


今度は他人を受け入れる余裕が生まれました
人や物事に対して持っていた激しい好き嫌いの段差がなだらかになったことで、寛容さを手に入れました。これはフワフワと生きていた時期に得た、今でも役立っている感覚ですね。

4、誰かのために生きる 〜母親とリアルイベントに感じること~

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ユーザー側の視点から、施設側の視点へ

——サウナの発信を始めて今年で3年目になりますね。世の中はサウナブームですが、今後のやのくんのサウナ活動の指針を教えてください。


僕の今のサウナ活動の根底には、「おじいちゃんになった時に、毎日どこのサウナ施設に行くかで迷いたい」ということなんです。迷うぐらいにサウナ施設があって欲しいと思っています。

ここ2年でサウナの経営者や熱波師さんとお会いすることが多くありました。その方達は経営を続けるのに、たいへん苦労をされています。
このままただサウナを楽しむだけの日々を過ごしていたら、僕がおじいちゃんになる時にはサウナがなくなってしまうかもしれません。
サウナはなくなって欲しくないし、もっと儲かってもらいたい。
そう考えるとユーザーのためというよりは、施設のために何かしたいという気持ちが強いです。

だから今、サウナの入り方のチラシを作って施設に置いてもらったり、サウナや銭湯施設でイベントを行ったりして、ユーザーやリピーターを増やす目的で活動をしています。

誰かのためではなく、自分のために

——自分のためにという思いが、巡り巡って人のための活動になっていますね。


「自分のため」という動機がないと、結局いつか自分が苦しくなると思うんです。
自分のためを逆算すると、絶対に「誰かのため」を経由します。

そういう意味で誰かのために何かするということは、相手のためになったら自分が嬉しいというところにも行き着くと思います。

そんなモチベーションになれたのは母親のおかげなんです。
僕の母親は自分を隠さないし、見栄を張らないし他人を見下さない。お節介すぎるくらい他人に献身的です。
そうすると母親と関わる人がみんな元気になってく、パワースポットみたいな人なんです。


——そんなお母様を見ているから、自分がリーダーや有名人になろうという思いではなくて、人と人や、体験をつなぎたいと思ってるんですね。


母親を見ていて思ったことは「情けは人の為ならず」という言葉です。

自分自身が、誰かにきっかけを与えたり、モチベーションをあげられる人になって自分の周りが人生を楽しんでいる人ばかりになれば、自分もその恩恵にあやかって飛躍できると信じています。

おわりに

「夢中になることをみつけたい」「自分のことを他人に知ってもらいたい」と、10年ほど前までは「自分」という存在をあまりにも尊んでいたやのくんは、いつしか他人と一緒に成長することに喜びを見出すようになった。

「すっかりサウナに夢中ですね」という問いかけに、「いえいえ。夢中になりすぎないようにしています」という答えが返ってきた。夢中になれるものを追い求めて、そこに存在意義を見出した人間の風格を感じた。


(インタビュアー/編集:東ゆか)